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大風がやってくる [日記]

大風がやってくると聞いたのは、それに対する処置の選択肢が随分少なくなるくらい後だった。イライラと少ない選択肢から乱暴に70点の回答をひったくる。私はオレンジの折り畳み傘で応戦することになる。みんな手に立派な傘を携えているじゃないか。仕方がない、いま知ったのだから。持っていただけましというものだ。

「10年ぶりの大風がやってくる」

言い聞かせて外に出れば、長く伸びた前髪が風にさらわれて目の前に土砂降りの雨が現れる。傘をさそうと伸ばした腕を雨のライフルが容赦なく叩いていく。しかし、今度は逃げるわけにはいかないのだ。

「次は次はって何度目よ。ちっとも前に進んでないじゃない。あんたみたいな下っ端の仕事をいつまでも待っていられるほどこっちに余裕なんてないのよ。高いのはプライドばっかり。言い訳ばっかりで直そうともしないのね。そんな実力で才能があるとでも思っているの? 実力って、あんたが今手を動かしている部分のことだけじゃないのよ。その周りも、全部なのよ。それだけできたってだめなの、全部できて、やっと一つのことだけできるの。指摘したことぐらいその通りにやってよ。これぐらいのことあんたじゃなくてもできるのよ」

もう少し早く知ってたらな。オレンジの折り畳み傘じゃなくてきちんとした傘で出られたのに。でも、そんなこと問題じゃないでしょう? あれから風はいつも向かい風だったんだ。
コツがある。うまく風を避けるコツ。
傘の背で風を受けながら、一歩一歩歩むようにその傘の重心を傾ける。かきわけながら進んでいく。折り畳み傘でも不可能じゃない。それと傘に負担をかけないことだ。風で折れやすいところは、初めから自分の手で支えておけばいい。
問題は服だ。生憎、今日は雨滴の目立つ薄い化繊のスカートだ。もう既にびちびちと雨の形が染みている。まぁ、考えないことにしよう。今はどうにもならない。目的地についてからの処置だ。厚手のタオルならいつでも持っている。

何しろ10年振りの大風がやってきているんだ。逃げるわけにはいかない。
今度こそ。



相馬野馬追を見てきました at 大井競馬場 [レポート]

私が「相馬野馬追」の存在を知ったのは、病院の待合室で流れていたNHKの番組がきっかけでした。
「相馬野馬追」とは甲冑姿でやる競馬のこと。国指定重要無形民俗文化財にも指定されている福島県南相馬市の伝統行事です。
病院の待合室で見ていた時は、字幕(検査内容の関係でほとんど見えない)と映像のみで音声は何もなかったので内容としてはわかったようなわからないような印象でしたが、甲冑姿で青草を走る姿は一瞬で私の心を捕らえてしまいました。
「これは本物が見てみたい」
そう思っていた矢先に大井競馬場になんとその「相馬野馬追」がやってくるという情報を入手。
これは行くっきゃない! いくつかの偶然にも恵まれて、当日、開催される大井競馬場に行くことができました。

「相馬野馬追」はレースの前のイベントとして行われました。
開催前に代表からの挨拶がありました。その時に、震災を指してか原発の事故を指してだったか忘れてしまいましたが「忌々しい」という言葉が出てきたのが印象的でした。恨んでも恨みきれない、物語にならない感情がそこには渦巻いていたように思います。

ほら貝を吹き、民謡を歌った後、いよいよレース開始。
背中に背負った大きな旗印は反対側のレーンにある観客席からもはっきり見えます。モニターや双眼鏡に頼らずに初めからレースの様子が判るのは相馬野馬追ならではのいいところかも。あと、風の抵抗にレースが左右されるところも面白いと思います。特別レースみたいな感じで(発券もして)今後継続してやっても面白いんじゃないんでしょうか。なんて。
あっというまで、いい写真も撮れなかったので実際の様子はこちらをご覧ください。

■NHK NEWS WEB『復興願い競馬場で相馬野馬追』
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130929/k10014900191000.html

相馬野馬追を見るうえで、少し気になっていたのが病院の待合室で見た時に特集されていた騎手の方。
断トツの速さでゴールしていた姿が目に焼き付いていたのですが、今回のレースで拝見できるのかどうか・・・。
なんせ字幕があまり読めない状況だったので、ろくに名前もあまり覚えられていませんでした。
でも、今回のレースのゴール直前に猛然と追い込む馬の上に、あの映像で見たのとよく似た白い鉢巻姿の騎手の方を見ました。
最後に追い込んで、追い込んで、ゴールの直前で前の馬を追い抜いて1着!

騎手の名は星秀正さん。きちんと調べることができました。
■東京シティ競馬 『「相馬野馬追」甲冑競馬を実演!』
http://www.tokyocitykeiba.com/news/1495

今回の競馬で、黒地に白鷺の旗を背負い、ゴール直前で1位に躍り上がった馬の騎手の方です。
そして、以前のNHKの特集番組で、相馬野馬追が好きだった妻の為に、津波で妻を亡くした今も続けている姿がクローズアップされていた方です。

星さん、強いやねぇ。
敵わんわ。

タグ:相馬野馬追

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