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新宿駅西口地下ロータリー、交番、鳩を見つめる少女 [日記]

つまらない会合を、終わりを待たず抜けた。長い長い屋根付きの、外光の入らない通路をひとり歩いていると、会場内で浴びた冷たい視線が脳裏によみがえってきた。「何で来たの」と視線は言っている。「汚らしい。」
(あんたに会いにきたんじゃない)
口の中で繰り返せど、容赦なく言葉は侵入してくる。
「何か変われたとでも思ってるの? あんた、何も変わってないよ。変わらず、汚いよ」

新宿駅西口の地下ロータリーに出た。中央のぐるりとくりぬかれたような空間を見ると少しほっとした。日なんてとっくに落ちたのに、そこから光が射しているような気がしたのだ。それとひきかえ、ここは黒い。ロータリーの歩道は、道案内の標識が黒いからというだけでなく、全体として黒い印象がある。いつも中央から射し込む光のせいで、影のように黒いのだ。

地下ロータリーの中央にある交番の前に、鳩が何匹かたむろしていた。交番の、グレー一色の素っ気ない壁の前に、人があまりやってこないのを知ってか堂々と居座ってじっとしている。
そして、その鳩たちの前には一人の少女が立っていた。白いパーカーとジーンズというラフな格好で、手に荷物はない。
鳩に餌をあげるでもなく、仁王立ちして、警察からは見えない位置で、じっと鳩をみつめている。

私はふと雪原を連想した。
彼女の前には白一面。
どこまでも雪野原がひろがっている。
辺りには、何もない。
彼女と、鳩以外には。

鳩は飛ぼうとしなかった。
ここが地下ロータリーで、屋根があるからかもしれない。
食べ物だって豊富だ。どこかにわざわざ行く必要はないのかもしれない。
でも、きっと窮屈だ。
鳥は空にいる生き物なのだから。

少女はじっと、鳩の前にいる。
何かに集中しているように、静かに、周りの音なんてまるで聞こえてないみたいに。

「飛べ」
その声が合図だった。
地下ロータリーの屋根がバタンバタンと鴨居を失った襖のように折りたたまれていった。急に視界が開け、地平線が見えてくる。もうビルなど一つも見えない。
辺りは少女が見ているであろう、白い雪原になる。
そして、鳩は一斉に飛び上がった。翼を思う存分はためかせ、もつれるようにじゃれあいながらどんどん小さくなっていく。自由に空を駆けめぐり、やがて見えなくなっていった。

私の、夢想の中でだけ。


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