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春だ。君、私とお好み焼きの話をしよう。 [日記]

ほんとは「ゆく河の舟で三三九度」の完結と、その後の文学やり直し60冊だけに力を注ぐのが筋なのだろうけれど、「一つのことに集中する」というのは、実は案外効率が悪いので日記を少し書きながら進めることにした。
「思考の整理学」(著=外山滋比古・ちくま文庫)のなかでも書かれていることだけど、「ひとつだけでは、多すぎる。ひとつでは、すべてを奪ってしまう」のよね。


思考の整理学 (ちくま文庫)




というわけで、最近行ったお好み焼き屋の話。
グランデュオ立川の「なんばん亭」に行ってきた。

■食べログ|なんばん亭 グランデュオ立川
http://r.tabelog.com/tokyo/A1329/A132901/13129162/

正直、そんなに期待はしていなかった。なんせ、デパートのレストラン街に入っている店だし。
店の中に入れば、系列店の紹介がされている。チェーンかぁ。食べる前から味が見えてしまった気がしていた。この時までは。

オーダーを入れると、間もなく店員がお好み焼きのタネを持ってお好み焼きを焼きに来た。
じゅわっと音を立てて鉄板の上に黄色い円がのびてゆく。
…意外と小さい。私はもっと大判の、フライパンいっぱいになるような大きさのお好み焼きを想像していた。これじゃ、お腹いっぱいにならないよ…。
「焼きあがるまでこちらで調理しますのでこのままお待ちください」
そんな私の心配をよそに、店員はいったん去った。

10分ほど経って、店員が戻ってきた。大きめのテコを手に調理を始める。
まずは端から。少し折り返してお好み焼きを四角い形にする。折り返し方が丁寧だ。飴細工でも扱っているような繊細な手つきで、一辺ずつ折り返す。
そして、一気にひっくり返す。更に端を整え、真四角のお好み焼きが整形された。端を折り込んでいるためか、厚みがあり、中央に向かってこんもり盛り上がっている。
できを確かめると、店員はコテについた油を布で拭った。まるで、刀についた血しぶきをぬぐう武士のように。そして、きれいになったコテを腰元の道具入れに「すちゃっ」と収めた。まるで、西部劇のガンマンのように。
私は一連の動作の美しさに感動していた。一つ一つの動きにプロとしてのたしなみが感じられた。先ほどまで持っていた先入観は消えていき、期待が膨れ始めていた。
やがて、お好み焼きが焼き上がり、ソースをかける段階となった。店員はマヨネーズの容器を持つと、素早い動作でそれを振った。鉄板のはるか上から、金糸のような線があっというまに細いストライプ模様になってお好み焼きの上に描かれた。まばたきするぐらいの時間だ。あまりの鮮やかな手さばきに、思わず声が出た。
店員はニコリともせずに、お好み焼きを切り分ける作業に入る。じゃっ、じゃっ、と均等な大きさの四角に分かれていく。…切り分けてみると、意外と大きい。さっきまで小さく見えていたお好み焼きと同じサイズにはとても思えない。

「どうぞお召し上がりください」
その言葉を合図に、できあがったお好み焼きに箸を伸ばす。
なんだこれは。うまい。うますぎる。お好み焼きの概念が変わる。焼き方で、こんなに味が変わるものなのか。
ふわふわした食感ながら肉厚のお好み焼きは、今まで食べたお好み焼きと同じ部分を持ちながら味が全く異なっていた。たとえて言うならば、一人の女性の小学校時代と20代半ばの黄金時代くらいに違う。
プロの技を目の当たりにした瞬間だった。

結局、お腹いっぱい食べて飲んでもお会計は3000円を少し出たくらい。
また行きたい、いいお店でありやした。

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お好み焼きについて言葉を並べると、自分が書いた「お好み焼き屋」という詩のことを思い出す。
鉄板の火が止まった後の、その余熱でお好み焼きを焦がしてしまう男が主人公。
火を止めるタイミングを逃したのは、たったひとりで焼いていたから。
いま、この詩が自分の身に積まされている。

鉄板に火はまだついているのか、それとも火を止めた後の余熱が残っているだけなのか。
私の小説への情熱は、まだ生きているのか。
今は毎日自分に問いかけながら、文章を綴っている。


あ け ま し て お め で と う ご ざ い ま す  た つ ど し [日記]

あさひも届かない森の湖には誰もいなかった。
けさの冷込みに皆布団に包まっているのだ。
まだその日その音を聞いた者はいないはずだ。
しずかに しずかに 耳を澄まして。
てを耳に当てる。
おとのない湖の奥から僅かにそれは聞こえた。
『メルデスゾーンを奏でる寂しげな音』
でも、その奏者の正体を知る者はいなかった。
とても湖の果てまでその奏者の為にオールを漕ぐ自信のある者はいなかったのだ。
うずくまって毛布の中で少女は息を吐いた。
「ごめんなさい、私もあなたの元に行けません」
ざんげを捧げながらも、少女は揺れていた。
『いま、もう少しの勇気が私にあればあの人の孤独を癒すことができるのに』
まさか、という奇跡はそのとき起こった。
すべての湖の水が氷結し、少女の目の前に氷の道ができあがったのだ。
たちあがると、風花が喉に入り込んできた。
つめたい指先で少女は毛布を剥がした。
どうすればいいか、もうきっと答は出ている。
しずかに しずかに 耳を澄まして。




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文の冒頭を繋げると、
「あけましておめでとうございます たつどし」
になります。
詩の世界でおもに使われる「折句」というもので、小説を作ってみました。
新年らしく、冬の寒さの中で心が引き締まり、決意が感じられる内容のものがいいな、と思いながら作ったらこんな内容のお話になりました。
メルヘン童話っぽい感じですね。

最近、どんなお話作っても「待ってる人のもとに向かう話」になりがちなのは、自分の願望の現れなんだと思いますが、、

今年は辿り着きたいものですね。
待ってる人のもとへ。
そして、その先の世界へ。

本年もよろしくお願いいたします。

深森花苑


新宿駅西口地下ロータリー、交番、鳩を見つめる少女 [日記]

つまらない会合を、終わりを待たず抜けた。長い長い屋根付きの、外光の入らない通路をひとり歩いていると、会場内で浴びた冷たい視線が脳裏によみがえってきた。「何で来たの」と視線は言っている。「汚らしい。」
(あんたに会いにきたんじゃない)
口の中で繰り返せど、容赦なく言葉は侵入してくる。
「何か変われたとでも思ってるの? あんた、何も変わってないよ。変わらず、汚いよ」

新宿駅西口の地下ロータリーに出た。中央のぐるりとくりぬかれたような空間を見ると少しほっとした。日なんてとっくに落ちたのに、そこから光が射しているような気がしたのだ。それとひきかえ、ここは黒い。ロータリーの歩道は、道案内の標識が黒いからというだけでなく、全体として黒い印象がある。いつも中央から射し込む光のせいで、影のように黒いのだ。

地下ロータリーの中央にある交番の前に、鳩が何匹かたむろしていた。交番の、グレー一色の素っ気ない壁の前に、人があまりやってこないのを知ってか堂々と居座ってじっとしている。
そして、その鳩たちの前には一人の少女が立っていた。白いパーカーとジーンズというラフな格好で、手に荷物はない。
鳩に餌をあげるでもなく、仁王立ちして、警察からは見えない位置で、じっと鳩をみつめている。

私はふと雪原を連想した。
彼女の前には白一面。
どこまでも雪野原がひろがっている。
辺りには、何もない。
彼女と、鳩以外には。

鳩は飛ぼうとしなかった。
ここが地下ロータリーで、屋根があるからかもしれない。
食べ物だって豊富だ。どこかにわざわざ行く必要はないのかもしれない。
でも、きっと窮屈だ。
鳥は空にいる生き物なのだから。

少女はじっと、鳩の前にいる。
何かに集中しているように、静かに、周りの音なんてまるで聞こえてないみたいに。

「飛べ」
その声が合図だった。
地下ロータリーの屋根がバタンバタンと鴨居を失った襖のように折りたたまれていった。急に視界が開け、地平線が見えてくる。もうビルなど一つも見えない。
辺りは少女が見ているであろう、白い雪原になる。
そして、鳩は一斉に飛び上がった。翼を思う存分はためかせ、もつれるようにじゃれあいながらどんどん小さくなっていく。自由に空を駆けめぐり、やがて見えなくなっていった。

私の、夢想の中でだけ。


やめようとおもって [日記]

「制作メモ」の"写真で制作メモを公開する”というやつを、やっぱやめちまおうかなと、思った。自分的にあんましおもしろくなかったから。それで、ブログの管理者ページにログインしてみると、これが思いの外アクセス数を稼いでいて拍子抜けした。

(おもしろいんかな、これ。)
(でも、自分的にはおもしろくないんやろ。)

優柔不断のO型なのでここで一度立ち止まる。結論は「とりあえず」の名の下に明日へ持ち越すことにした。
うーん、どうしようかな。

そもそも、なんでおもしろくなかったかというと、制作メモの写真をアップするだけ、というのは表現が「あまりに一方的」だと思ったからだ。
美術館の壁に掛けられた自分の絵の陰で、来場者の声をこっそり聞いているような気分。(まー、やっていることはどっちかっていうと逆のはずなんだが。)
決して外に出られない、というところが、自分にはジレンマになってしまった。

コミュニケーションはとりながら、ゆるく、ゆるく、ね。
ブログをアップすることだけに一生懸命にならないように、でも人とやりとりしながらのほうが自分らしいのかな、なんてことに思い当たったのでした。

それよりも「ゆく河」の3話、早く書かなくちゃ。
いま、健二の半生の設定を練り直しています。


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